IoT における課題を解決するエッジコンピューティングとは?

2022年10月24日
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エッジコンピューティング

エッジコンピューティングとは、端末やそれと接続されたサーバでデータ処理をおこなってからクラウドなどの上位システムにデータを送信することで、負荷を分散するネットワーク技法のことです。端末から収集した情報をクラウドで処理する前に分散して処理するため、低遅延・ネットワーク負荷の軽減などのメリットが得られます。

近年、IoTや5Gなどの発展で大容量のデータを取り扱うことが多くなったことで注目されています。

今回は、そんなエッジコンピューティングについて説明・事例の紹介をしていきます。

エッジコンピューティングとは?

エッジコンピューティングは、端末などのネットワークの端(エッジ)で1度データ処理をおこなってから上位にあるクラウドなどにデータ送信するネットワーク技術のことで、エッジ処理とも呼ばれます。

従来は、端末やセンサーなどから送信・収集されたデータをすべてクラウドに集約して、クラウドサーバ上で処理をおこなう技法(=クラウドコンピューティング)が一般的であったのに対し、クラウドサーバにデータ送信する前に端末データ処理をおこなうことをエッジコンピューティングと呼びます。

エッジコンピューティングは、特にIoT分野において活用が進んでいる技術です。
IDC Japan株式会社が発表している市場予測によると、国内エッジインフラ市場の成長について次のように述べられています。

“2021年の国内エッジインフラ(ハードウェア)市場(以下、「エッジインフラ市場」)の支出額は、前年比19.3%増の4,056億円(参考資料)であると推計しています。また、2021年~2025年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は9.9%で、2025年の同支出額は、5,911億円になるとIDCは予測しています。IDCでは、企業や組織におけるデータ分析処理の比重が、今後、コアインフラからエッジインフラにシフトし、AI(*1)技術を利用した高度なデータ分析処理に対するニーズが高まるとみています。それと共に、データ分析処理に使用されるデータは、動画や静止画などの非構造化データが増加し、データの種類も豊富になってくることから、今後、エッジコンピューティングのニーズは拡大し、エッジインフラ市場は高成長すると予測しています。”

[引用元]
IDC Japanプレスリリース「国内エッジインフラ市場予測を発表」(2022年4月27日)

このように、エッジコンピューティングは今後ますますニーズが拡大・成長すると考えられている技術です。

エッジコンピューティングが注目される理由・背景

近年、エッジコンピューティングが注目されている理由としては、主に「取り扱うデータ量の増大」と「セキュリティ意識の向上」の2つが挙げられます。

取り扱うデータ量の増大

現在、次世代のデータ通信技術「5G」の実用化が進んでいるように、私たちの生活におけるさまざまなモノの通信量は増加し、通信速度はますます高速化しています。また、「ビッグデータの活用」に企業が注目をはじめ、IoTやDXといった新たなデジタル化の取り組みから、収集・蓄積・処理されるデータ量も大幅に増大しました。

こうした世の中の変化から、昨今はさまざまなモノから送信されるデータの容量が大きくなり、1度に収集して取り扱うデータの種類も増えてきたことで、クラウドコンピューティングではクラウドサーバに処理負荷が集中したり、ネットワーク通信に遅延が発生したりとさまざまな問題が発生しやすくなっています。

そこで、クラウドにデータを送信する前に、端末やそれと接続された周辺のサーバ(=エッジサーバ)で処理をおこなうことでデータ処理の負荷を軽減したり、処理済みのデータのみをクラウドに送信することでネットワーク通信の負荷・遅延を軽減したりといった技法、エッジコンピューティングが注目を集めるようになりました。

例えば、近年増加しているIoTの場合、端末やセンサーから取得したデータをIoTゲートウェイと呼ばれる中継機にいったん集約し、中継機内でデータのクレンジング・分析などの処理をおこなってからインターネットでクラウドに送信する…といったかたちで活用されています。

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セキュリティ・プライバシー保護意識の向上

また、セキュリティ意識の向上もエッジコンピューティングが注目される背景にあります。

2018年に施行されたEUの「GDPR(EU一般データ保護規則)」や、Google Chromeなどをはじめとするさまざまなブラウザでの「サードパーティークッキー(3rd Party Cookie)のサポート廃止」、2022年に施行される日本の「改正個人情報保護法」など、近年では利用者のプライバシー保護に対する関心が世界的に高まっています。

こうした情勢のなか、収集したデータをサービス改善・商品開発・マーケティングなどに役立てるためには、個人情報が保護されるよう充分配慮して適切なデータ運用をすることが求められます。

そこで、データに含まれる不要な情報をエッジで処理し、クラウドサーバ上に保持せずに済むエッジコンピューティングに注目が集まっています。

ただ注意点として、IoT全般における傾向としてまだまだセキュリティ面が充分でないエッジデバイスも多く存在しているのが現状です。

そこでエッジコンピューティングでは、「IoT端末とエッジサーバの通信はBluetoothを使用する」「エッジサーバとクラウドサーバの通信はHTTPを使用する」といった具合に、用途に応じた通信プロトコルをきちんと暗号化したうえで使い分けることが大切です。

また、複数のデバイスとクラウドをネットワークで繋ぐため、万が一どこかに不正なアクセスが発生しても被害範囲が最小限に収まるように「ゼロトラスト」と呼ばれるセキュリティモデルを採用することもおすすめです。

ゼロトラストとは、あらゆる通信を完全には信頼(=トラスト)しないという思想を根底に、おこなわれる全ての通信に安全性の検証をおこなうセキュリティモデルです。

例えば、これまではファイアウォールなどの外部からのアクセスに対する検閲機関を設置したり、パスワードによる認証機能を導入して第三者がアクセスできないようにしたりと、外部から内部に対する通信の境目に「ゲート」を設置して防御をおこなう境界防御モデルが一般的でした。

しかし、この方式では一度ゲートを突破されてしまうと、ウイルスやマルウェアが内側のネットワークで簡単に拡散してしまい、被害が拡大してしまう危険性があります。

そこで、ゼロトラストでは内部のアクセスや通信に対してもすべてに安全性の検証をおこなうことで、もし万が一外部から脅威が侵入していても、それを途中で食い止めることを可能にしています。

こうした思想のもと、万が一のリスクに備えてエッジコンピューティングをおこなう周囲のネットワークすべてのセキュリティを強固にしておくことがおすすめです。

エッジコンピューティングのメリット

一部、上記解説にも記載しましたが、エッジコンピューティングのメリットを以下に整理してご紹介します。

通信遅延・負荷の軽減

1つ目は、通信遅延の解消です。

エッジコンピューティングでは、処理済みの必要なデータのみをクラウドに送信するため、通信容量を抑えることができ、通信遅延を軽減することができます。

たとえば、容量の大きな画像を送信しようとするとそれだけ通信に掛かる時間も多くなりますが、あらかじめ必要な容量にリサイズ(=処理)してからデータを送信することで通信に掛かる時間を削減できます。このようにエッジコンピューティングは、ネットワークの圧迫・通信コストの増大などの課題を解決できます。

リアルタイム性の向上

2つ目は、リアルタイム性の向上です。

たとえば、カメラやセンサーなどで収集したデータを処理・分析して得られた結果を取得したいとします。

このとき、収集したデータを1度すべてクラウドに送ってから、クラウド上で処理・分析をおこない、結果を受けとる端末にデータを転送する…といった工程をとっていると、物理的に遠距離にあるクラウドサーバとネットワーク通信を介してデータのやりとりをするため、データをリクエストしてから実際にデータを受けとるまでの間に通信遅延(=レイテンシ)が発生します。

一方で、エッジコンピューティングであれば端末や近くのサーバで処理をおこなうため、レイテンシを軽減することができ、データリクエストから受け取りまでを高速化することが可能です。

セキュリティの向上

3つ目は、セキュリティの向上です。

たとえば、カメラで撮影した人物の情報やICカードから取得したログ情報、決済情報などをデータ処理・分析して取り扱う場合は、特に高いセキュリティレベルが重要視されます。

エッジコンピューティングであれば、すべてのデータをクラウドに送信することなく、処理済みのデータだけをクラウドに送信するのでセキュリティレベルの向上が期待できます。

エッジコンピューティングの課題と解決策

さまざまなメリットが挙げられる一方で、エッジコンピューティングにはまだまだ課題もあります。

管理の煩雑化

その1つが、「管理の煩雑化」です。従来のクラウドコンピューティングであれば1点集中あるいはある程度まとまった単位でデータ収集を集中管理できましたが、エッジコンピューティングでは末端に存在する端末ごとにデータ処理をおこなうようになるため、デバイスの運用管理が煩雑になります。

データを収集・統合したり、端末ごとの保守・運用をしたりといった手間に加え、機能を新規拡張したり変更したりした際に生じる工数も大きくなりがちです。エッジコンピューティングを導入する際は、エッジデバイスを簡単に・わかりやすく管理できる仕組みや体制を合わせて検討しましょう。

コストの増加

またエッジコンピューティングでは、クラウドコンピューティングによる場合と違い、端末に配置するデバイスごとに情報処理の機能をもった高機能な端末を用意する必要があるため、これまでのIoTセンサや端末よりもコストが高くなる傾向があります。サーバの準備など環境構築におけるコストも必要です。

加えて、上記で述べたように管理が煩雑化するため、保守運用や機能改修などにおける人件コストも増加します。

構築・運用時に発生するコストをなるべく抑えられるように、用途にあった適切なスペックのデバイスを選定すること、将来的な拡張性を考慮した選定・構築をおこなうこと、スムーズな運用管理ができる仕組みや体制を整えておくこと、などをしっかり計画立てて統率をとりながら進めることが大切です。

これらの点について、自社の力のみで進めることが難しい場合は、信頼できるベンダーに相談しながら進めることもおすすめです。

データの消失リスク

エッジコンピューティングでは、収集したデータを処理して必要な情報のみをクラウドに送信することができますが、一方で不要なデータとして削除されたデータが、後々必要になるケースも考えられます。このような点は、データを処理せず全て保持できるクラウドコンピューティングと比較するとデメリットになり得る部分でしょう。

対策としては、あらかじめ活用したい必要な情報を漏れのないようしっかり定義しておくことと、後から追加で活用したいデータがでてきた場合にすぐにそれに対応できる拡張性を持った仕組み・運用体制を構築しておくことが大切です。

エッジコンピューティングの活用事例

ここからは、具体的なエッジコンピューティングの活用事例をご紹介します。

「スマートファクトリー」でのデータ処理

昨今、IoTを導入して機器・設備、センサーから稼働状況などをデジタルデータとして収集することで、業務プロセスの改革や品質・生産性の向上を図る「スマートファクトリー」が台頭しています。

工場内に設置されたいくつもの機器・設備、センサーから取得されるログ情報は、容量が大きく通信量が膨大になりがちです。そこで、エッジコンピューティングの技法を使って、データを取得しているIoT端末そのものや、センサー・端末と接続されたエッジサーバ、あるいはIoTゲートウェイなどの中継機のなかで一旦データの処理をおこなうことで、その先のクラウドサーバへの通信負荷や処理負荷を軽減することができます。

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「デジタルサイネージ」での視聴計測

近年のデジタルサイネージは、ただ映像を配信するだけでなく、カメラやセンサーを使って視聴している人がいるか・いないか、どんな人が視聴しているかなどの視聴計測をおこない、配信コンテンツの最適化やその後のマーケティング・販促企画への応用ができる機種が登場しています。

たとえば、当社で扱っている L tabletというサロンサイネージ(美容室でお客様が着座中に視聴できるタブレット型のサイネージ)では、デバイスに付属したカメラでお客様の顔の特徴点をリアルタイムに解析し、高速・正確な顔認証を実現しています。

この機能によって写真撮影を行うことなくお客様が着座しているか否かを判別できるので、サイネージに広告出稿している広告主は、広告が着座中に配信されたかどうか(=有効再生かどうか)を判別できるようになります。

この視聴計測の仕組みでは、カメラで取得した顔の特徴点をエッジコンピューティングで解析して、顔認識結果のみをクラウドに送信するため、個人情報がネットワークに流れることもなく安心です。

小売業店舗におけるサイネージ視聴率測定
【事例】ドン・キホーテ店舗でサイネージ視聴率を計測!店舗マーケティングに応用できる実験column
 近年、デジタルサイネージはさまざまなデータと連携してリアルタイムに表示内容を最適化できるようになるなど、販促装置として急速に進化しています。「商品の売れ行き」や「気候」、「広告データ」などと連動したマーケティング効果の高いサイネージが登場しており、単に映像を見せるだけのサイネージはもはや時代遅れです。そこで当社は、「価値のあるデジタルサイネージの在り方」を徹底的に追及するため、株式会社パン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングス様の協力を得て、ドン・キホーテ中目黒本店にてサイネージの視認率計測実験を行いました。本記事では、こちらの実証実験の内容についてお伝えいたします。

IoT技術を活用した、その他のデジタルサイネージ製品について知りたい方はこちらもご覧ください。

「顔認証」でのリアルタイムな入退室管理

またエッジコンピューティングの技術を用いて、顔認証システムにおける認証速度を高速化したソリューションも登場しています。

たとえば、人物がゲートを通過する際に、ゲートに設置されたセンサー・コンピュータで通過者の顔情報を取得・処理してゲートの開閉やクラウドとの連携をおこなう、といった具合です。エッジコンピューティングを用いて顔認証が高速化されれば、ゲートを通過する短い時間の間に認証を完了させることも可能となります。

「自動車」の自動運転技術への活用

自動運転技術の1つとしても、エッジコンピューティングが活躍しています。
自動運転でも特に課題となるのが画像解析の迅速さです。

人命に関わる緊急時の判断・処理をコンピュータがおこなうためには、カメラやレーダーなどから取得された情報をクラウドに送信してから処理しているようでは対応が間に合いません。

そこで自動車に搭載されたコンピュータで、緊急性の高いデータを処理・分析して瞬時の判断を可能にするために、エッジコンピューティングの技術が活用されています。

「ドローン」の自律制御運転への活用

人の立ち入りが難しい危険地域や高所などで、インフラ設備などの自動点検や偵察を目的とした産業用のドローンが活用されはじめています。

ドローンも自動車の自動運転と同様に自律制御運転の研究・開発が進められており、風などの周囲の環境データをもとに迅速な情報処理をおこなってリアルタイムな空中での姿勢制御を実現するためにエッジコンピューティングの技術が活用されています。

エッジコンピューティングに関する今後の展望

「通信遅延・負荷の軽減」「リアルタイム性の向上」「セキュリティの向上」など、さまざまなメリットを持ち多くの分野で期待されているエッジコンピューティングですが、5Gの実用化やDX推進の潮流、プライバシー保護の意識の高まりなどをうけ、今後はますます浸透していくものかと思われます。

実際、エッジコンピューティングはIoT市場における重要技術となりつつあり、今後もエッジ層でのデータ析処理を選択する企業が増えていくと考えられています。

加えて、エッジコンピューティングの最新動向として「エッジAI」という仕組みが浸透しつつあります。

エッジAIは、端末などのネットワークの端(エッジ)でAIを用いた処理をおこない、クラウドとの通信をできるだけ減らす仕組みのことです。

これまでであれば、AIを活用する際、クラウドサーバに集められたデータに対して、クラウド側でAIの処理をかける「クラウドAI」が一般的でした。一方エッジAIでは、AIが処理済みの必要最低限の情報のみをクラウドに送信するため、よりエッジコンピューティングのメリットを加速させることができます。

なかでも、上記の活用事例で述べた「自動車の自動運転技術」などのように、センサで取得された情報に対して瞬時に判断が必要なシーンで役立つことが期待されています。

例えばクラウドでビッグデータからの学習処理(ディープラーニングなど)をおこない、作成されたAIをエッジでの予測処理に役立てれば、これまで以上に早い判断・処理が可能です。

今後は、エッジAIを含めた新たな発展と合わせて、エッジコンピューティングそのものがより浸透していくことでしょう。

 

以上、本記事ではエッジコンピューティングについてご紹介いたしました。

当社では、企業様が抱えるビジネス課題を解決するためのIoT技術を用いた製品・ソリューションの企画・設計・製造から、運用・保守までをワンストップでサポートしております。

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